近年、がんの5年生存率は向上してきており、がんと共存していく時代になってきました。それにより、長期に渡ってがん患者さんの日常生活動作(activities of daily living:ADL)を維持・向上するために、がんリハビリテーションが注目されてきています。
そこで、当院に入院治療中(手術前後・化学療法)のがん患者さんを対象に2015年11月1日よりがんリハビリテーションを開始しました。
がん患者さんの方は、がん自体が患者さんの体力低下や機能障害を引き起こすことに加え、手術・化学療法などのがんに対する治療によっても合併症が生じます。
主なものとしては、疼痛、疲労、筋力低下、全身体力低下、移動・セルフケアなどの「日常生活動作(ADL)」障害などのがんの種類によらない一般的な問題、また、リンパ浮腫、末梢神経障害、軟部組織・骨切除術後などのがんの種類による特別な問題が生じます。
がん患者のリハビリテーションでは、これらの機能障害や能力低下をできる限り予防し、起こってしまった機能障害の回復を早期に図り、生活能力の向上と仕事や趣味活動への復帰を目指します。
当院では、がんリハビリテーションの研修を受けた医師・看護師・理学療法士を中心に、薬剤師・管理栄養士・医療ソーシャルワーカー等がチームを組んで、おひとり、おひとりの病状や体調・能力に合わせたリハビリテーションを行っていきます。
手術前後の時期に行われるリハビリは「予防+回復的リハビリテーション」です。
手術前に行うリハビリには下記のような利点があります。
手術後のリハビリは、がんの種類や手術法によって異なります。
手術後、できるだけ早く退院したいけど、「痛みやだるさがある、術創部の状態が不安でどれくらい動いていいのか・運動していいのか分からない」などの訴えをよく聞きます。 入院中の安静が体力低下を引き起こし、退院後動くとすぐ疲れて家事や仕事が思うようにできない状況になってしまいます。そうならないためにも、術後翌日から体調に合わせて病棟の中を歩いたり、筋力トレーニングを行ったり、日常生活に戻る為の体力維持できるようにリハビリを実施しています。
がんの治療は長期にわたります。自分がやりたいことができる様に体力を維持することを目標に、リハビリもできる限り協力いたします。
抗がん剤治療(化学療法)が行われる時期のリハビリは「回復的リハビリテーション」です。そして治療が終わった時期のリハビリは「維持的リハビリテーション」となります。
抗がん剤による治療中は、がんそのものや治療の副作用による痛み、吐気、だるさなどの症状がよく起こります。それらによって食欲が低下し、栄養状態が悪くなり、眠れなくなることもあります。さらに、精神的なストレスを感じたり、意欲が低下したり、気持ちがふさぎ込んだりして、心身ともに疲れ果ててしまい、昼間もベッドに横になっていることが多くなります。
その結果、筋力・体力は低下してしまい、疲れやすい体になってしまいます。そして、疲れるから動かない、動かないから体力がまた低下するといった悪循環に陥り、ついには寝たきりとなる「廃用症候群(生活不活性病)」をきたしてしまいます。
リハビリとしては「運動療法」が最も重要です。運動を行うことによって身体機能が高まるため、動いてもエネルギーをそれほど消費しなくなり、疲れなくなります。また、すっきりした気分になり、精神的苦痛も軽減されてQOL(Quality of Life = 生活の質)が向上します。
積極的な治療が受けられなくなった時期には「緩和的リハビリテーション」が行われます。がんの進行とともに体力が低下し、日常生活動作(ADL=Activities of Daily Living)も少しずつ障害されてくる場合でも、患者さんの多くは最後まで自分で動いたり、食べたり、排泄したり、話したりすることができます。
緩和的リハビリの目的は、余命の長さに関わらず、患者さんとそのご家族の要望を十分に把握した上で、患者さんに残っている能力をうまく生かしながら、その時期においてできる限り可能な最高の日常生活動作(ADL)を実現することにあります。
現在は、がんのリハビリテーション研修を修了した理学療法士4名で行っています。